医師と患者のダークロマンス、新解釈「HARLEEN」感想

いよいよマーゴット・ロビー主演の映画「バーズ・オブ・プレイ~ハーレイ・クインの華麗なる覚醒~」のDVD発売もまじかに迫ってきました。

この映画ではハーレイことハーレイ・クインがジョーカーと破局するところから物語が始まりますが、今回ご紹介するのはそんな二人がまだ出会ったばかりの頃の物語です。

その名も、「HARLEEN」

ハーレイ・クイン誕生の瞬間として、ファンなら見逃せないストーリーです!

DC映画の中でもDCEUシリーズの一つである「スーサイド・スクワッド」でジョーカーとハーレイを知ったという人も多いと思いますが、あの映画で随所に挿入された映像の通り、2人はアーカム・アサイラムという特殊な環境で出会います。

この作品では、その二人が出会ったことでハーリーンがジョーカーの狂気に取り込まれ、ハーレイ・クインとなるまでの過程が恐ろしく緻密に描かれているのです。

この記事では、日本ではまだ未翻訳の「HARLEEN」について、その概要と私が読んだ感想をご紹介したいと思います。

「HARLEEN」の作者と作品の概要

2020年2月にアメリカで発売されたこのコミック(グラフィックノベル)は、2019年9月25日からDCコミックのブラックレーベルで連載された限定シリーズを纏めたものです。

コミックスは全三巻でしたが、それらすべてを纏めたハードカバー版も発売されています。

作者および作画は、女性同士のSMラブストーリー「Sunstone(サンストーン)」で一躍名をはせたステファン・セジック(Stjepan Sejic)

まず手元に届いて驚いたのが、本の装丁です。

私はアメコミを電子書籍で買うことが多いのですが(未翻訳の作品などはkindleやDC Comicsで購入するため)、事前に得ていた情報からこの本だけは紙書籍で購入したいと思っていました。

アメコミとしても大きいサイズですが、なんと珍しくカバーが付いています!

しかもカバーの一部が透明になっており、カバーをめくるとそこにはハーリーンの別の表情が・・・。

これまでジョーカーとハーレイの馴れ初めと言えば、ハーレイの生みの親であるポール・ディニが手掛けた「MAD LOVE」が原典とされてきました。

その後、様々な作家(ライター)とアーティスト達によってこの「MAD LOVE」を元にしたストーリーが作られてきましたが、ここまでしっかりとアーカム・アサイラム時代に焦点を当てた作品はこれまでありませんでした。

ここ数年の傾向として、ハーレイ・クインはジョーカーから離れ悪役(ヴィラン)ではなくヒーローとして活躍する事が多くなっています。

しかし実は最近になって、この「HARLEEN」だけでなく「ジョーカーとハーレイの出会い」というコンセプトの元、新たな物語が作製される傾向があるのです。

詳しくは下記の記事を読んで頂きたいのですが、こうして改めて彼女の誕生した経緯について描かれるという事は、ハーレイ・クインというキャラクターをもう一度捉えなおそうというDC側の意向の表れではないかと私は思います。

「HARLEEN」のここが面白い!微妙に新しくなった設定

クインゼル博士はアラサー独身のキャリアウーマン

まず注目したいのが、ハーリーン・クインゼル博士のキャラクターです。

彼女の性格はこれまで、どちらかというと打算的な人物として描かれてきました。

『MAD LOVE』では、A評価を得るために教授陣を篭絡し、大学を卒業後アーカム・アサイラムにインターンとして入ったのも単純にキャリアのためでした。

ところがこの物語ではそんな性格が一変しています。

学年でもトップレベルの学力を持ちつつも、恋には奥手で彼氏なし。

ですが壮年の教授に恋をしその彼との現場を目撃されてしまったことで、「成績のためにおっさん教授を手あたり次第食ってるって」と周りに陰口を叩かれ、犯罪心理学の研究センターに就職してからもその影響は続きます。

30歳独身でペットなし。友人は一人しかおらず、家族は遠く離れて住んでいる。

発表した学説も認められず、孤独で鬱々とした日々を送るクインゼル博士でしたが、ある時転機が訪れます。

彼女の提唱する更生プログラムに目を付けたウェイン家から、支援の申し出がくるのです。

自分の研究に予算を出してくれるだけでなく、困難だったアーカムアサイラムでの臨床試験も出来るよう手配してくれることになります。

希望を胸にアーカム・アサイラムの門をくぐったクインゼル博士でしたが、そこで彼女の人生を捻じ曲げる運命の人物との再会を果たすことになるのです。

クインゼル博士とジョーカーの出会い

この物語では、ハーレイとジョーカーはアーカム・アサイラムではなくゴッサムの道端で出会います。

友達と飲んで愚痴った帰り道、クインゼル博士はジョーカーの犯罪車両と出くわします。

恐怖で立ちすくむクインゼル博士にジョーカーは銃を向けますが、なぜか彼女を見逃します。

ジョーカーが彼女の心に強烈なインパクトを残した瞬間でした。

その後、アーカム・アサイラムでの着任初日にジョーカーもアーカムへ移送されてきたことで2人は再会を果たします。

街での事件以来、毎夜夢にうなされるほどジョーカーに恐怖をおぼえていたクインゼル博士。

研究に没頭しつつも日に日にそれは強くなっていき、睡眠薬やアルコールに手を出してどんどん疲弊していきます。

そんな彼女の背中を押したのは、意外な人物でした。

トゥーフェイスの登場

この物語にはバットマンも登場しますが、もう一人キーパーソンとして登場するのが、二重人格の犯罪者トゥーフェイスです。

トゥーフェイス(本名:ハービー・デント)はバットマン世界におけるビッグネームの犯罪者ですが、彼は元は有能な検事でした。

ハーリーンが研究に着手しだした当初はまだ普通に検事として働いており、ハーリーンの研究について聞きつけた彼は彼女に助言します。

曰く「君の研究は法と秩序による犯罪抑止を壊す可能性がある」と、自らの経験則を交え研究から手を引かせようとするのです。

ですがこれが皮肉にもハーリーンの背中を後押しします。

恐怖心からずっとジョーカーの診察をすることから逃げ続けていたクインゼル博士でしたが、それに向き合う決心をする切欠となるのです。

またこのエピソード以外にも、トゥーフェイスは物語全体の重要な役割を担っています。

裁判中の犯罪者サル・マローニに酸性化学製品を投げられ左半身に大けがを負った彼は、昏睡から回復した時、犯罪者「トゥーフェイス」の人格を目覚めさせます。

「誰しも人間の心には怪物がいる。」

「善人であろうとすること自体がジョークだ。」

この台詞どおり、彼はこの物語の持つ「二面性」テーマを体現しているキャラクターなのです。

「HARLEEN」の感想

ハーレイ・クインの誕生を現代風にリボーンしたこの「HARLEEN」ですが、かなり挑戦的なストーリーだと思います。

ハーレイはアニメのオリジナルキャラクターから出発し、誕生の経緯も『MAD LOVE』というかなりざっくりした設定(15ページくらいしかない)を元にこれまで少しずつ肉付けされてきました。

30年近くかけて作り上げられてきた一人のキャラクターを根底から覆す意欲作だと思います。

「スーサイド・スクワッド」を始め、ハーレイの一人称という形でジョーカーとの逸話が語られる形式はよくありますが、そんな彼女から見たジョーカーがどういう人物として映っていたのかをここまで克明に表現した作品を読んだのは初めてです。

もう兎に角、読んでいただければわかると思うのですが、凄いですから!

先にも書いた通り、本が大きくて重たかったので腕が痛くなりましたが、それでも一気に読んでしまいました。

それにしても、ステファン・セジック氏のアートの美しさよ・・・。

ストーリーも大変良いのですが、ハーレイがとにかく美しくセクシーに描かれています。

真面目で頭が良くて優しくて信念があってセクシーな金髪美女とか高スペックすぎる!

こんなんジョーカーじゃなくても惚れるやろ!とハーレイファンとして大満足でした。

しかもハーレイだけじゃなく、ジョーカーの造形も是非みてください。

ちょっと美形に描かれすぎじゃないですかと思うほどカッコイイです(笑)

解説を読むと、このジョーカーはデビッド・ボウイを意識して描かれているのだそうです。

ジャック・ニコルソンやジャレッド・レトとは違う、ロックスターのようなカリスマ性を持つ犯罪者にしたかったと書かれています。

最初はハーレイの完全一人称視点で話が進んでいたのですが、最後にバットマンとアルフレッドが二人の様子を監視するシーンがあることから、一応三人称視点も入っています。

貴重な第三者視点のシーンですので、ここで少し二人の会話をご紹介したいと思います。

ブルース様、今のキスはお互いから自然に行ったものに見えませんか?

「HARLEEN」私訳

どういう意味だアルフレッド。まさかジョーカーが恋に落ちたとでも言うのか?

「HARLEEN」私訳

クインゼル博士の研究を支援したために彼女の人生を狂わせてしまったと考えるバットマンですが、彼はあくまでも博士の真心をジョーカーが利用したのだと主張します。

それに対し、「恋とは時に言葉より強い」と言うアルフレッド。

彼が続けて言った言葉通り、真相は誰にもわかりません。

ですが、そこに至るまでには多くの偶然と、運命の歯車が噛み合ったとしか言い表せないストーリーがあるのです。

自分の信念のためにジョーカーを助けたいと思うハーレイ。

ハーレイを利用しようとするジョーカー。

そんな2人の関係が織りなすヒリヒリした緊迫感と、心の接近をぜひとも味わってもらいたいです!

ところで個人的に嬉しかったのが、物語にアイビーが登場していた点です。

診察対象の一人だった患者の中にポイズン・アイビーもいるのですが、本当にステファン・セジック氏は女性を描くのが上手で、丸々1ページを使った彼女のシーンもうっとりしてしまうほど綺麗でした。

この方の描くハーレイとアイビーの物語もぜひ読んでみたいですね!

それでは、今回はこのへんで。